白くま生態観察記

上洛した白いくまもん。観察日記。勝手にコルクラボ

映画『アパートの鍵 貸します』

『アパートの鍵 貸します』

1961年のアカデミー賞で、脚本賞を取っている。これから脚本賞受賞作品を見ていくことに決めた。

こういう映画が見たかったんです。

 

【見どころ】 

男性を主人公に進んでいくプロットと、女性を軸に進んでいく裏プロット。どこがどのように関係しあうのか。

 

【あらすじ・流れ】

恋愛や生活よりも、仕事の評価。
バクスターは自分の住む部屋を、不倫の場所として貸し出していた。
そんなとき好きな女性が現れる。その女性も、部屋を使っていた……
バクスターはどうするのか!

主人公のバクスターは仕事の評価をあげるために、上司5人に不倫場所として自分の部屋を提供する。

やがて、残された忘れ物から、想いを寄せるキューブリックも密会していたことに気づいてしまう。お相手は局長。

衝撃を受けながらも「彼女は局長のもの」と思い定めて、知らないふりをして局長に貸しつづけ、昇進する。

不倫という関係に耐えられなかったキューブリックは、クリスマスイヴ、睡眠薬を大量服用して自殺を図る。

昏睡している彼女を、部屋に帰って見つけるバクスター。懸命な看護で、なんとか救う。

「局長にまだ恋をしているの。間違った人に恋をする才能があるみたい。
なんであなたを好きになれないんだろう」
言い放つ彼女と、体力回復のため数日間一緒に過ごす。悲しいけれど、楽しい時間。カードゲームをする。
いくら言っても、局長は彼女に優しい言葉ひとつかけようとしない。それでも、彼女が好きな局長の悪口は言わない。彼女を守り続ける。

しかし局長の不倫が奥さんにばれて、局長と彼女が結ばれることに。猶予は、離婚成立までの6週間。
局長はいまだ彼女を愛そうとはしない。彼女は局長が好き。
どうにもならない状況に、バクスターは部屋を捨てることを決意。彼女を傷つけず、自分の感情にケリをつけるには、これしかない。仕事も放りだす。

大晦日、彼女は局長とパーティに。局長にケリをつけて、走り出す彼女。晴れやかな顔。
引っ越し間際のバクスターの部屋につく。カードを取り出して、バクスターを見ながら「まだ途中だったわ」
バクスターは見つめ返しながら、ついに気持ちを言葉に出す。「ずっと好きだった」
見つめあうふたり。カードを配る手を止めて、「あなたを愛しているんだ」
「黙って。カードを配って」
おしまい

【感想】

最高です。美しい。

小道具がとても印象的。
キューブリックが不倫相手であることに気づくとき:割れた手鏡
昇進をあらわすもの:帽子
局長からキューブリックへのクリスマスプレゼント:100ドル札
パスタの水切り:テニスラケット

バクスターも最高じゃないですか。
惚れた女が局長のものだったとわかっても、彼女の気持ちにズカズカ入り込んでいかない。
ただ懸命に彼女を守ろうとする。彼女に元気を出してもらおうと、局長を何度も説得しようとする。さびしげに後ろから見守る。
他人を好きな女の子。ままならない現実で、自分がぐっと飲み込んで、すべてを彼女のためになるように。

伏線が美しく構成されている。
こういう映画を見たかった。

『裸足の季節』

裸足の季節

http://www.bitters.co.jp/hadashi/theater.html

 

 

シン・ゴジラ』と『君の名は。』を見て、映画館で見るのと、家で借りて見るのではまったく違うなと実感した。

このふたつを機内で見た人は、損をしたといっていいだろう。最初だけは映画館で見てほしい作品だった。

 

さて、『裸足の季節』。500円で見られる機会があったので、スクリーンで見てきた。

女の子たちがかわいくて、透明感があったので、「ダメでも、まあいいか」という気軽な気もちで。

 

 

【流れ】

トルコの女性差別を題材に、その因習に疑問をもった5人姉妹を描く。視点は末っ子ラーレ。

 

5人は、自然な感情として、男の子と遊びたいし恋もしたい。自由に生きたい。

しかし、思春期のある時期に、突然それが抑圧される。その抑圧に対してどうするのか。

 

因習は三つの軸で強調される。ひとつは、一緒に住む叔父に代表される「男性による女性差別」。もうひとつは、育ての祖母に代表される「女性による女性差別」。最後は、田舎という「密接な地域関係」

 

ラーレに迫ってくる具体的な危機として、一番上の2人が強制的に結婚させられる。3人目は苦に思って自殺する。

危機から抜け出す方法として、ラーレには車の運転技術が与えられる。しかし、それは不完全。なぜなら、まだ一人では生きていけない歳だから。

抜け出す先として、イスタンブールに行ってしまった学校の教師。

 

結局ラーレは、結婚させられそうになった4人目の姉を伴って、イスタンブールの教師のもとへ。

ちゃんちゃん。

 

【感想】

悪くない。けれど、よくもない。

これで解決なのか。ラーレの動機は「自由になりたい」だけである。子供はそれでいい。しかし脚本で、因習のアンチテーゼとするには弱くないだろうか。

脚本がそのわがままをわがままのまま描くのには疑問である。姉の結婚式(=大人に変わる儀式)をぶちこわして、自分のわがままに付き合わせる。もちろん姉にも「自由になりたい」意識はあったから、独善とは言い切れない。ここで問題になるのは、「自由になりたい」の意味の差である。

ラーレの「自由になりたい」は、「大人になりたくない」に過ぎないのである。いままでののどかな日々が続くことを、わがままに希望しているだけなのだ。

そう考えたとき、「因習VS自由」というフェミニズムの文脈から外れて、「大人VS子供」という文脈の要素が強くなる。もちろん「因習=大人VS自由=子供」という対立をうまく作れば、これも可能であろう。しかしラーレは、わがまま娘として描かれる。失敗ではないだろうか。

単純なストーリーであるにもかかわらず、疑問が残る。なぜトラックの男性は、無償で助けてくれるのか。なぜ祖母の仲間たちは、少しも理解を示さないのか。

構造的暴力は昔も今もあったからこそ、青春期の女性たちはみな同じ道を歩んできたはずである。ラーレたちだけが特別なのではない。流れの一地点として、ラーレを位置づければ、もっとうまく表現できたのではないかと思う。

あまりよいとは思えなかった。

ただ、女の子たちはとてもかわいい。とくに脚がいい。体を密着させて笑いあってる姿は微笑ましい。くねらせながらベットから滑り落ちる姿は最高。絵はよかった。

北方謙三『水滸伝』

先輩からのおすすめ本。

 

北方さんの『試みの地平線』を読んでから、「北方兄さん」と呼ぶことにしている。『試みの地平線』は、人生相談を集めたものである。悩める男どもの横っ面を、北方兄さんが本音で張っていくさまには、はっとさせられる。

10代~20代前半が雑誌に投稿する悩みというのは、結局はよくあるものだけれど、それぞれはそれぞれの文脈で悩んでいる。その文脈に応じて北方兄さんがぶつかっていくのは、読み物としておもしろい。人生相談好きには進めたい一冊だ。

回答にはさまざまあれど、共通する根っこはおんなじである。「こんなところで打ち明けてないで、自分で抱えて悶絶してろよ。腹くくって引き受けろ。自分の人生なんだろ。そんなんで「生きている」って胸張れんのかよ。かっこ悪いぞ。かっこよく生きろ。男だろ」

悩んでる男には最高の薬だ。こういう叱咤激励は、なかなかしてもらえない。男どもはぶん殴ってもらうために、打ち明けている、と思う。ほんとうにありがたい。

 

「現実の世界では、なかなかいい男には会えないよ、いい男というのは小説の中にしかいないんだよ」http://www.shueisha.co.jp/dai-suiko/taidan-arakuremonotati/index3.html

 

さて、男たちの乱舞する物語が目の前にある。北方謙三水滸伝』だ。

集英社文庫から『水滸伝』19冊、『楊令伝』15冊、『岳飛伝』がでている。『岳飛伝』は2016年2月現在、毎月刊行中である。最終巻の17巻は2018年に出る予定。

なにげなく集英社HPを見てみると、いのうえさきこさんが「圧縮水滸伝」を描いていたhttp://www.shueisha.co.jp/dai-suiko/inouesakiko/。まるくデフォルメされた人物たちが、かわいい。

物語の大きな枠組みは、宋という国に対する反乱である。第一巻で、国というシステムに対して闘争すると目標を掲げる。腐敗した国家というのは、各部分を修正するくらいでは正すことはできない。全体を一気に変えるほかない。その実現のためには、多くの人材・期間・資金が必要である。だからこそ、長い物語になるぞと。

中心人物が二人いる。宋江晁蓋である。体制としての反乱側(梁山泊)を見るときには、この二人で説明できるだろう。蜘蛛の巣でたとえるとわかりやすい。宋江は全国に蜘蛛の糸を張っていくタイプである。透明で、全体がつながっている。晁蓋はその中心にいて、梁山泊という蜘蛛を大きくしている。なにかあったら戦闘に参加する。

基本的な作戦は、内線作戦である。物量に優れた宋に対して、梁山泊は精鋭で固まって応戦する。留意しておく必要があるのは、宋というものを倒すには、梁山泊側は必ずしも戦う必要はないということ。宋江は「兵力10万」説を唱え、本格的な戦闘は先延ばしをする立場だった。対して晁蓋は「兵力3万」説で、早くから戦闘する立場だった。

大戦略としては、戦わずに宋を倒すのが楽ではある。しかし相手からすれば、軍を使って早期に掃討すべき対象であった。ここに軍隊同士の戦いがおきる必然性が生まれ、人が生き、死んでいくさまがいきいきと描かれる。

 

水滸伝』は、男たちがかっこよく生き、かっこよく死んでいく、と説明される。少し違うように思う。

描写は淡々としている。人物たちが淡々と描かれるから、大きな余白が生まれる。そこを読者が、かっこよく脳内補正するのだと思う。

生きざまを描くときに必要なのが、変化である。北方水滸では、登場人物それぞれが変化している。その移り変わりを、ごく自然に描けているのが、すごいと思う。王母・王進のところに行けば、人間的に成長する。魯智真と会えば、社会とのかかわりを意識するようになる。それぞれのキャラクターに、人生がある。

個人の変化に加えて、集団も変化する。

つぎつぎと人が死んでいくのもリアリティがある。有力な将校として寝返らせようとしてきた楊志は、寝返って早いうちに死んでしまう。水師から軍師へと変わる予定だった阮小五は、軍師としての成長の途上に死んでしまう。「なんだか死にそうだけど、重要人物だから間一髪で切り抜けるだろう」という予想が外れていくのだ。

集団としての変化を描くのだから、人が死ぬだけではなくて、赤ん坊が生まれもする。楊志のこころは、楊令へと受け継がれる。『楊令伝』では、『水滸伝』重要人物の息子たちも出てくるらしい。

なんたって戦う相手が国家である。反乱する方が、反乱軍としての体裁を整えるまえに、潰そうとするのが当たり前である。普通に考えて、成功するとは思えない。

その点で、国家を裏から支える青蓮寺の視点を入れたのは大きい。それも青蓮寺が強いのだ。相手を強く描いているので、それに対する梁山泊も同等以上の存在として認識する。梁山泊の脅威度が増すにしたがって、青蓮寺が影の組織としての位置を脱しはじめ、政治軍事に口を出していくさまはリアルである。

もちろん一線がある。地方軍で梁山泊を抑えきれなくなったとき、精鋭中の精鋭である禁軍が出動する。しかし梁山泊は、地方軍以上ではあるものの、正規戦では禁軍には勝てない。非正規戦(重要都市の一時占拠)で、政治的なインパクトを狙う。反乱側には、正規戦を戦う準備として、まだまだ時間が必要だった。しかし、そううまく時間は稼げず、ガチンコ勝負を余儀なくされる。

梁山泊、落つ。

しかしそれだけでは終わらない。全国に広げられた巣は、柔軟である。『楊令伝』につながっていく。

 

箱田ほか『認知心理学』(有斐閣)

箱田裕司・都築誉史・川畑秀明・荻原滋『認知心理学』(有斐閣、2010年)

 

有斐閣New Liberal Arts Selectionhttp://www.yuhikaku.co.jp/books/series_search/50)の一冊。本棚にあればいろいろと便利だ。

このレーベルからは心理学分野の本がたくさん出ており、HP上だと11冊のうち4冊分を占める(2016年2月現在)。『認知心理学』のほかには、『心理学』『社会心理学』『臨床心理学』である。『心理学』だけは2000年代の出版なので、「そろそろ新版がでるんじゃなかろうか」という予想のもと、購入はせずに図書館から借りてある。

 

今回読んだのは、『認知心理学』である。2016年12月に第6刷を数えており、着実に売れている教科書だといえる。

心理学関係の本で面白いのは、さまざまな実験である。研究者たちは、自分の主張を裏づける根拠として、工夫を重ねた実験を提示する。実験によって研究が進んでいく。

この本は、ほとんどの部分が実験(つまり論文)を軸に書かれているので、研究動向論文の簡易版を読んでいる気になる。その分野の研究の蓄積を、専門家の案内に従って読む。ただそれだけで楽しい。

もうひとつ。実験されるのが「自分だったら……」という感覚が面白さにつながる。研究として読むことと、自分の感覚として読むことが併存するのだ。研究の対象が人間であるから、実験される側として、突き放して読むことが難しい。私の研究分野なら「対象」と「私」をできるだけ分けて読むけれど、心理学では門外漢の特権として「対象」と「自分」をごちゃまぜにして読むことができる。そして、それが望ましい。ああ楽しい。

 

教科書なので、具体的な内容を書くには適さないだろう。もとよりこのレーベルは「門外漢として、最初に参照したい一冊」を目指しているのだろう。この本も、手元に置いておくだけの価値がある本だった。

とはいいつつも、最後に構成だけ。

 

第1部 認知心理学の基礎:感性・注意・記憶

 第1章 認知心理学の歴史とテーマ

 第2章 視覚認知

 第3章 感性認知

 第4章 注意

 第5章 ワーキングメモリ

 第6章 長期記憶

 第7章 日常認知

 第8章 カテゴリー化

第2部 高次の認知心理学:言語・思考・感情

 第9章 知識の表象と構造

 第10章 言語理解

 第11章 問題解決と推論

 第12章 判断と意思決定

 第13章 認知と感情

第3部 認知心理学の展開:進化・社会・文化

 第14章 認知進化と脳

 第15章 認知発達

 第16章 社会的認知

 第17章 文化と認知

 第18章 メディア情報と社会認識