白くま生態観察記

上洛した白いくまもん。観察日記。勝手にコルクラボ

執筆

駄菓子:蒲焼くん

日曜日だというのに、その動物園には僕と僕の友人と見知らぬ女の子しかいなかった。 僕と僕の友人はずっとゴリラとにらみ合っていた。ゴリラが突進してくるのを待ち受けるようにガラスに額を打ちつけたり、ゴリラが胸をどかどか叩くのにあわせてこちらも胸を…

陸上部

高校1年の秋、ぼくは陸上部に入った。 校内のマラソン大会で3位に入って、陸上部のやつらに「一緒に走ろうぜ」と言われたからだ。走るのは楽しいかもしれないと思った。のちに関東大会にも出ることになるエースからも「いい走りしてる」とも言われた。入るし…

いい加減、本気に人生を生きろよ。――人生の転機⑧[完結]

葬式が終わっても、泣けないまま日々を過ごしていた。 ストレスでお腹が痛くなった。気晴らしにアニメを見ようとしてもぜんぜん楽しくない。本を読むほど集中力は続かない。世界から色が消え失せて、食べものも味を感じなくなった。 ――ああ、これ、論文で精…

予感

あとになって思いかえしたら「2018年6-7月は人生の決定的な分岐点だったな」と思いかえす気がする。正体はみえないけれど、ひしひしとした予感を感じる。 直接のきっかけは、6月に佐渡島さんに「面白くて、的確」と言われたことで、続いて7月に「すごく好き…

ほんとに嬉しいときって、何も書けなくなるんだね

どうしようどうしよう。この嬉しさをどうすればいいんだろう。わかんないよ。 ふとしたときに顔の筋肉がゆるんで、にへらと笑ってしまう。道行く人に「ぼくね、いいことがあったんです。世界は愛に満ちてるんですよ」と声をかけたくなる。自分に「落ち着け」…

「大丈夫だよ」ーー人生の転機④

ぼくらは東京駅で待ち合わせをした。 先輩は「急に呼び出しちゃってごめんね」と笑うと、「付いてきて。ちょっと歩くよ」と言ってつかつか歩きだした。ぼくはうなずいて後を追った。 ひさしぶりに電車に乗って疲れていたから、あまりしゃべらずに歩くのはあ…

「言うことを聞けよ、ぼくの身体!」――人生の転機③

研究者になりたい。 そう思ったのは大学2年だった。本や論文を読むのが楽しくてずっと読んでいた。友だちに「学問のどこが楽しいの」と訊かれて「当たり前の価値観・世界観が揺さぶられるんだよ。自分が揺さぶられる。めちゃくちゃ楽しい」と答えた。たとえ…

「きみが好きだったよ」――人生の転機②

その日の夜になってから、彼女から返信がきた。「そうだね。会おう」ということだった。 会うことになったのはいいけれど、そのひとは忙しい期間に入っていて、むりに時間を取るのは悪いなと思った。もとはと言えば、ぼくが悪いのだ。あの夜にぜんぶ片づけて…

孤独と愛のおしまい。そしてこれから。

昔からの読者は知ってのとおり、このブログは孤独と愛をテーマのひとつにしている。 ぼくは昨年3月に親友を亡くした。 エッセー、あるいはある人のこと - 白くま生態観察記 それからずっと、さみしくてたまらなかった。京都に来てからも、毎日毎日、涙があふ…

好きな人に告白する言葉を教えて

「好きな人に告白する言葉を教えて」という質問に対して、永六輔さんが答える。 とっても素晴らしくて、永六輔さんを好きになってしまう。 永六輔さん、まだ恋愛がよくわからなかった高校の時にこの回答をネットで見かけて衝撃を受けたのを覚えてる。 #永六…

頑張らない勇気

ぼくの周りの人たちは、普通の人よりも優秀で、頑張り屋さんで、気配りも効いて、自分でできることは自分でやって、他人に迷惑をかけようとしない。 振られた仕事はちゃんとこなすことはもちろん、周りの人が困ってたらヘルプに入って、「助けあうのが友だち…

無意識の検閲――純粋な感情

ぼくは人をよく好きになる。 たとえば人がぼくのために何かしてくれたとき。「ありがとー」と感謝の言葉を伝えるけれど、その後ろに(大好き!)と隠していることが多い。 ほかには、派手じゃないけど大事なことをやっている人を見たときとか、がむしゃらに…

大阪地震――手をつないで帰る親子

ゴロゴロゴロと揺れた。 何が起きたのかわからなくて、ぼんやりと目を覚ましながら、ああ地震かと気づく。 そしてグラグラッ、ドンッと身体が浮いた。 あっ、やばいなこれ。体験したことのない揺れだ。 寝ぼけていたから何も動けない。自作の本棚が倒れるの…

立つ――バランスをとるとは、どういう意味か

あなたが、友だちと電車に乗っていたとする。 立ち続けるゲームをしよう、と友だちに提案する。吊革などにつかまってはいけないし、足を一歩でも動かしてもいけないというルールだ。負けたほうがジュースをおごる賭けも追加する。できれば勝ちたい。 勝利条…

励まして。

あるひとから「励まして」と言われたことがある。 そのひとは自由なひとで、いつも笑っていて、マイナスの感情なんて傘に降った雨粒みたいに流れ落ちていくひとだった。 だから、そのひとが落ち込むなんて予想外で、ぼくに言ってくるのも予想外で、というか…

さらけだし漫画――We are lonely, but not alone.

大学3年のとき、ひとりの女性に「思ってること、ぜんぶ言っていいんだよ」と言われた。すでに限界だったぼくは、ドロッドロの感情をぶちまけてしまった。そのひとは、しばらく沈黙して「やってきたものが大事だったから、ぜんぜんできなくてつらいんだよ」と…

おかざき真里『かしまし飯』

「どんなひとが好きなの」と訊かれると、いつも回答に迷う。 迷って迷って開き直って「好きなひとが好きなんだよ。好きってそういうもんでしょ」と言いたくなるけれど、でも目の前のひとから求められているのは、そういう回答じゃない。 話のタネになる、拡…

生で聴いた桂歌丸――慶應三田演説館

ゼミの先輩が神田松之丞の講談を生で聴いたらしい。 彼の講談は、ぐいっと世界に引きこんでいく手腕がすばらしい。いつのまにか彼の世界に入りこんで、そのまま終わりまでもっていかれる。 松之丞はお客とのコミュニケーションが上手で、空気感を捉えながら…

映画『風立ちぬ』

宮崎駿さんの『風立ちぬ』に、ひとつだけ許せないシーンがあった。 結核の菜穂子さんの横で、二郎がタバコを吸うシーンである。 結核を患って大変な菜穂子さんと同じ部屋で、タバコを吸うとは何事か! と思った。ただでさえ肺が弱っているのに、追い打ちをか…

『孤独のグルメ』

ひとり暮らしを始める後輩の手伝いをした。東京から京都に来て、はじめてのひとり暮らしだ。 ぼくと同じ状況だから、なんだか去年を思いだしてウキウキしてしまう。ふたりで自転車に乗って、「ここのリサイクルショップ安いし、掘り出し物あるよ」とか「ここ…

佐渡島さんとのこと

ぼくが佐渡島さんと出会ったのは、2016年11月のNHK「プロフェッショナル」だった。 その日の番組は、10代vsプロフェッショナルと題した特別編だった。そのひとつの企画に、天才編集者・佐渡島さんが出てきた。 番組のサイトは残っているけど、映像は残ってい…

コルクラボ

「自分はなんてダメなんだろうと思う人ほど、ダメ具合を正しく認識してないんだよね。ほんとにダメなところを避けて、四六時中ダメだと言ってる」 「ダメなところを見ていれば、ダメだからこうしようってなるはずなんだよね」 「ダメだと言いながら、ダメだ…

カプセルホテル

長方形の通路は、真っ白な壁で覆われていた。湿度管理された空気が身体にまとわりつき、呼吸をするたびに乾いたゼリーを飲み込むようだった。空気清浄機の回る音がやまない。匂いのない無機質の空間だった。天井からは白い光が照らす。行きかう人たちは、黒…

ケイスケ・ホンダーーコンテクストによるイメージ

NHK『プロフェッショナル』で、本田圭佑を扱っていた。 サッカー選手でありながら、よく話題になるのは彼の言動である。 言動からは、ぐんぐん前に進んでいくエネルギーを感じる。 まったく後ろを振り返らない。弱音はぜったいに吐かない。「そんなのオレに…

感情は客観的である

音楽体験には適切な感情の構えが重要であると言ったけれど、感情とは何か、という問題を考えたい。感情を説明しなければ、どう構えたらいいのかを説明しきれないからである。 以下の文章は、三木清『人生論ノート』から取ってきた。これをタネに、感情の全体…

裏の妄想

ツイッターの裏垢を閉鎖するので、好きな妄想を救済しておきます。 表垢でつぶやくには勇気がいるから、ブログならちょうどいい。 恋の夜長 気になる子からLINEがきて、「どういう意図でこの単語入れたんだろ」「もしかしてぼくのこと……ないな」「いやでもワ…

京都三名水ーー染井の水

京都にきて初めにやったことは、おいしい水の確保だった。 飲用水がおいしいか否かはQOLに直接かかわる。水は大事だ。紅茶やお茶を淹れるにも、ご飯を炊くにも、味噌汁にも、水は欠かせない。シンプルな飲食物ほど、水道水とおいしい水の違いが如実に表れて…

舞妓さんのかわいらしさ

おしろいを塗って花柄の着物を着た舞妓さんが、数メートル先で三味線にあわせて踊っていた。背中から膝裏まで、だらりの帯が覆っている。カブトムシの甲羅に似ていた。着物の袖は、振り上げた手から下に大きく垂れている。裾が地面をこすっていた。 芸妓にな…

普段着の着物

祭りに行った。正面のステージでバンドが演奏する。色のきつい光線が舞って、音が鼓膜に響いてくる。 その喧騒の外側で、着物の女性が慣れた手つきでタバコを取りだした。火をつけて、うまそうにひと息吸って吐き出す。そうやって喧騒を眺めている。横顔が妙…

自分だけを見ていた

彼女は、テニス部に入っていた。部活のある日には、ヨネックスのあの大きなバッグを背負って予備校に来ていた。 テニスは高級なスポーツの感じがした。イギリスの上流階級がやるもの、みたいなイメージがあった。ぼくの高校でもかっこいいやつだけがテニスを…