白くま生態観察記

上洛した白いくまもん。観察日記。勝手にコルクラボ

文芸

福永武彦『愛の試み』再読

このブログでは、福永武彦をもとにして愛を考えてきた。 去年、すでに三冊を取り上げた。どれも拙くて福永さんを読んだことある人にしか伝わらないので、リンクは貼らない。 いくら拙いとはいっても、『愛の試み』を取り上げた回は酷すぎた。本を理解する気…

感情は客観的である

音楽体験には適切な感情の構えが重要であると言ったけれど、感情とは何か、という問題を考えたい。感情を説明しなければ、どう構えたらいいのかを説明しきれないからである。 以下の文章は、三木清『人生論ノート』から取ってきた。これをタネに、感情の全体…

三島由紀夫『小説読本』

菫(すみれ)の花を見ると、「可憐だ」と私たちは感ずる。それはそういう感じ方の通念があるからである。しかしほんとうは私は、菫の黒ずんだような紫色の葉案を見たとき、何か不吉な不安な気持ちを抱くのである。しかし、その一瞬後には、私は常識に負けて…

カオスとコスモス

イ・ヨンド『ドラゴン・ラージャ』を小学生のときに読んでいた。ファンタジー作品で、民族ごとの世界観・宗教観にしびれていた。 いまでも憶えている話をひとつ。 手のひらいっぱいのおはじきを地面に投げ落としたとする。おはじきはバラバラに散らばって、…

アレデ音楽シテイルツモリナンダカラネ

岡田暁生『音楽の聴き方』(中公新書、2009年) ぼくは、ツイッターで「芸術を語る視線を手に入れられる本」と評した。著者の実感とあわせて、思考の軌跡をたどれる本である。素晴らしい。 印象的なエピソードがある。 著者がドイツの友人宅を訪問したときの…

悲しいから泣きますか――謎のプリンス

塾講師をしていたころ 「悲しいのに泣けない人っているけど、感覚がわかんない。わたし卒業式とか号泣しちゃう」 と言っている人がいた。同じ教室に「悲しくても泣かない」という人もいれば、「そもそも泣かなくね。なんで泣いてんの。みっともない。」と言…

鴻上さんの大人

谷川俊太郎さんの大人の話を読んで、鴻上さんの「大人」の話を思いだした。おすすめです。 鴻上尚史『鴻上尚史のごあいさつ1981-2004』(角川書店、2004年) 高校時代の彼女は、何ものかにすがることを、はっきりと拒否しているように当時の僕には思えました…

谷川俊太郎『谷川俊太郎 質問箱』

谷川俊太郎『谷川俊太郎 質問箱』(ほぼ日刊イトイ新聞、2007年) 質問 どうして、にんげんは死ぬの? さえちゃんは、死ぬのはいやだよ。 (こやまさえ 六歳) (追伸:これは、娘が実際に母親である私に向かってした質問です。 目をうるませながらの質問で…

三田誠広『いちご同盟』

三田誠広『いちご同盟』(集英社文庫、1991年) 『君嘘』は、『いちご同盟』へのオマージュだった。 高校生のとき、20歳には死んでそうだなと思った。 大学に入って、30歳くらいで死ぬなと思った。 体調を崩した時期には、残りの人生は消化試合だなと思った…

漢詩と『君嘘』

漢詩を語ることで、『君嘘』に迫る。 李白の「黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る」。漢文の教科書で読んだ。 七言絶句である。縦書きのものを、横書きにした。 故人西辞黄鶴楼 煙花三月下揚州 孤帆遠影碧空尽 惟見長江天際流 高校生のとき、この詩を読んで…

齊藤亜矢『ヒトはなぜ絵を描くのか』

齊藤亜矢『ヒトはなぜ絵を描くのか』(岩波書店、2014年) 岩波書店『図書』2017年12月号で、齊藤さんの文章を読んだ。 「サルを追いかけていたら、崖から落ちて背骨を骨折した。サルを追いかけて? と笑われることも多いが、まったく笑いごとではなかった」…

心とまじない

ハリーポッター・シリーズで、大きな謎があった。 なぜ「エクスペリアームス(武装解除)」の呪文は、さまざまな効果をもつのか。 あるときは相手の杖だけを吹き飛ばしたり、あるときは相手の杖を術者のほうに飛んでこさせたり、またあるときは相手ごと吹き…

2017年各部門ベスト3

今年読んだ物語とか。ベスト3と言いつつも、ひとつしかなかったりするのはご愛敬です。 全部門トップ おかざき真里『阿・吽』(小学館) 絵に吸い込まれて、呼吸がとまるという稀有な体験ができます。はーと息を吐ききったとき、口から出るのは「すんげぇ」…

深町秋生『果てしなき渇き』

深町秋生『果てしなき渇き』(宝島社、2005年) おすすめされた。 読みながら、こういう本をおすすめするひとは、どういう人間なのかを考えていた。 暴力につぐ暴力が延々とつづられる。具体的で肉感のある描写だから、読者は暴力をする側になったり、される…

雑想――エッセーを読みながら自分を読む

「大切な情報をたくさん得ているかわりに、どうでもいい情報の洪水が、私の脳にはがんがん入ってきているのだ。 それを偶然にも一時的に中断してみたら、頭の中がすっきりした。どうでもいい情報はやっぱり害なのだ、とあらためて思った瞬間だった。どうでも…

見る

人は見たいものしか見ない。目の前にあっても、ちゃんと見ることができない。 と、よく言われる。正しい。 しかし、ぼくはこうも思う。 目の前のものをそのまま見るには、どうしたらいいのか。 見ることができないのだから仕方ないと諦めるのではなく、でき…

挫折

毎週、NHK『ドキュメント72時間』を見ている。 どうしても頭から離れない女性がいる。 禅寺体験の回。参加していた女子大生だ。 警察官になることが彼女の夢だった。そのために大学に行って、自動車免許もとって、たぶん身体も鍛えていた。 しかし、車を運転…

伊坂幸太郎『砂漠』

伊坂幸太郎『砂漠』(新潮文庫、2010年) 「大学生活を変えた本。おすすめ」とのことだった。「伊坂さんのなかでは異色なんだけど」 本の感想を書くとき、巻末の解説を先に見る。誰かが書いているのと同じことを書いてもしょうがないからだ。ネットは見ない…

信頼のエチュード

鴻上さんの『表現力のレッスン』を読んでいる。 この本は「信頼のエチュード」という演劇のレッスンで始まる。 ふたりで行う。前後に立って、前のひとは目をつぶって後ろに倒れる。後ろのひとは、倒れてくる前のひとを支える。 前のひとの信頼が試されるレッ…

三浦しをん『風が強く吹いている』

三浦しをん『風が強く吹いている』(新潮文庫、2006年)。 夜中の11時に読みだした。そのまま、深夜3時半まで読んでいた。 普段なら「明日もあるし、ここでやめて寝よう」と手をとめる。しかし本書には、先を読みたいと思わされた。心のままにページをめくっ…

芥川龍之介の恋文

芥川龍之介の恋文、やばい。 なんだこれは。 http://weemo.jp/v/f67f657a こんな恋文をもらったら、好きになってしまう。 たとえ嫌いな相手からもらったとしても、この恋文にはグラッときてしまう。 こころがうつくしい。 罪だよ、芥川さん。 もうひとつ見つ…

フランク・ウイン『フェルメールになれなかった男』

フランク・ウイン(小林頼子・池田みゆき訳)『フェルメールになれなかった男――20世紀最大の贋作事件』(ちくま文庫、2014年) 友人からのおすすめ。「芸術家に対して我々が抱く諸々のイメージそのままの繊細かつ傲慢な画家が、自分を置き去りに先に先にと進…

岡本太郎『自分の中に毒を持て』

岡本太郎『自分の中に毒を持て』(青春文庫、1993年) 岡本さんがお坊さんの前で講演を頼まれた。 前にしゃべった講師が「道で仏に逢えば、仏を殺せ」という言葉を使った。有名な言葉だ。一種真理をついている。しかし岡本さんは、ウソだと思った。最初に言…

鴨川と『パレード』

吉田修一『パレード』(幻冬舎文庫、2004年) 昼すぎに鴨川に行く。デルタでは、ちっちゃい子が遊んでいる。 「ママー、えびいてはるー!」 「えーどこどこ?……うわっ、つめたっ」 スボンをめくりあげて、母親が川のなかに入っていく。この時期の水は、だん…

リズム感のない俳優

鴻上さんの著書に、こんなエピソードがある。 名越という、リズム感のない俳優がいた。踊りは下手だけれど、だれよりも楽しそうに踊る。演出家の鴻上は、うまくないけど幸せに踊る姿をみて、いつも幸福になる。それでいいと感じていた。 あるとき名越は、う…

高石宏輔『声をかける』

高石宏輔『声をかける』(晶文社、2017年)。 某氏がおすすめしていた。「ナンパは自傷。」との言葉にひかれて購入。 よかった。 【構成】 話すのが苦手、ノリに身を任せるのも苦手。はっきりいって、主人公は女性に声をかける人種ではない。しかし彼は、そ…

理想像

小学生のころ、大人になったらこうなりたいという理想像があった。 夢水清志郎だ。 はやみねかおる「名探偵夢水清志郎事件ノート」のシリーズに出てくる探偵だ。黒いスーツを年中着続けて、やせ形で身長は高い。針金細工みたいな。部屋にはうずたかく積まれ…

道尾秀介『光媒の花』

道尾秀介『光媒の花』(集英社、2012年)。 短編連作集。そうくるか! という驚きの連続で、心が揺さぶられる。緩急がしっかりしている印象。すごい。 友人が紹介していて、たまに読むサイトがある。「作家の読書道」だ。道尾さんは、「相手の頭の中に感情を…

さいきん読んだ本とか。 村山由佳『星々の舟』(文春文庫、2006年) 短編連作集。すんごい。 直線的な幸福ではなく、ねじれきったすえの、一抹の幸せを描く 「自分だけの足で独りで立つことができてこそ、人は本当の意味で他の誰かと関わることができる…

三木清『人生論ノート』と井上雄彦『リアル』

おもしろい問いを投げかけられた。問うてくれた人に感謝したい。 「愛とは創造であり、創造とは対象に於て自己を見出すことである」(三木清『人生論ノート』)とは、どういうことか。 まず私がこの本を理解できていなかったことを告白しなければいけない。2…