映画『ミッドナイト・イン・パリ』
わかりやすい流れ。いいアイデア、いいひねり方、いいオチのつけ方。
【あらすじ・流れ】
主人公のギルは、フランスに婚約者家族と旅行に来ていた。1920年代のフランスが最高だと思っていて、作家になりたかった。婚約者とは価値観が合わない。婚約者は、未来を夢見ていた。
ある夜、12時の鐘がなるとき、目の前に昔の自動車が現れる。
酔っていたギルは、中から誘われて乗った。
そこは1920年代のフランスだった。
パーティ会場には、夢にまで見た人物たちがいる。フィッツジェラルド、コクトー、ヘミングウェイ、ピカソ。会場を離れ、ひとりで外に出ると、現在に戻る。
自作の小説の評価をもらいに、毎夜訪れることになる(婚約者がいるから、毎日戻る必要がある)。才能があると評される。
やがてアドリアナに恋をしたギルは、彼女を伴って外に出る。
同時代人と一緒なら、現在に戻らない。
しかしその途上、さらに昔の馬車が通りかかる。それに乗るふたり。
そこはアドリアナが夢見るベルエポックの時代だった。入れ子構造である。
アドリアナが熱中するのを見たギルは、状況を客観視する。そして気づく。過去に憧れる行為には、際限がないのだ。その時代に慣れると、もっと昔に憧れるだけである。その繰り返しだ。
つまりギルは、現在の重要性に気づいた。
いままでは婚約者の不倫から、目を背けていた。作家になりたいという願望を、直視してこなかった。パリに住みたいという夢を、見ないようにしていた。
過去への執着をあらわすアリアドナと決別し、現在に帰る。
現在に戻ったギルは、これらすべてを清算する。婚約破棄。作家を目指す(腕は認められたのだ)。パリに残る。現在を充実させることを選んだ。
そうしたとき、ギルが歩く隣には、「雨のパリが一番好きなのよ」という女性がいた。
【感想】
過去に憧れる青年が、過去に憧れるのは現在への不満の裏返しであることに気づき、その現在を充実させることを選び取る物語。
ショートショートや短編小説を読んでいるかのような作品だった。キレっキレである。
サイドストーリーとして、婚約者の父が毎夜いなくなるギルを怪しんで探偵をつける。ギルをつけて1920年代に行った探偵は、そこでとらえられる。みたいなものもあった。婚約者家族は現在への不満と未来を象徴するので、まあ捨象していいでしょう。