O・ヘンリー『1ドルの価値/賢者の贈り物 他21篇』
O・ヘンリー(芹澤恵訳)『1ドルの価値/賢者の贈り物 他21篇』(光文社[古典新訳文庫]、2007年)。
O・ヘンリーの短編集は、いろいろな版元から翻訳されている。また、青空文庫でも「最後の一葉」「賢者の贈り物」などを読むことができる(http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person97.html)。
光文社のものに収録されている短編は23篇となる。以下、収録順に挙げる。
「多忙な株式仲買人のロマンス」「献立表の春」「犠牲打」「赤い族長の身代金」「千ドル」「伯爵と婚礼の客」「しみったれな恋人」「1ドルの価値」「臆病な幽霊」「甦った改心」「十月と六月」「幻の混合酒」「楽園の短期滞在客」「サボテン」「意中の人」「靴」「心と手」「水車のある教会」「ミス・マーサのパン」「二十年後」「最後の一葉」「警官と讃美歌」「賢者の贈り物」
いくつか簡単にあらすじ・感想を。
短編小説はアイデアとひねり方とオチが肝なので、下を読まずに本を読んでほしい。自分用メモ。
「千ドル」
【あらすじ】
放蕩息子が父親の死で千ドルを相続する。千ドルという中途半端な金の使い道に困る。いろいろな人に話を聞いた末、こころを入れ替え、愛していた人にすべて渡すことに決めた。
金の使途を、弁護士に報告することになっていた。明細を封筒に入れて弁護士に会うと、追加の遺言があることを知らされる。「千ドルを遊びに浪費していたら、5万ドルは愛していた人に。千ドルを他人のために使っていたら、5万ドルは息子のもとに」。
これを聞いた瞬間、彼は封筒を破り棄て「くだらないことに使っちゃいました。見るまでもありません」。弁護士はやっぱりという顔をする。息子は口笛を吹きながら出ていく。
【感想】
とてもいい。
「伯爵と恋人」
【感想】
まさに理想の女性ではないだろうか。黒服が似合って、きりっとしている。最初はツンとしていているのに、最後の段になって最大の打ち明け話をされる。か、かわいい。
「1ドルの価値」
【あらすじ】
裁判官に「いつか殺してやる」という手紙が届く。彼は取り合わずに、鉛製の偽造1ドル硬貨を作った犯人の裁判の準備をする。
犯人の妻から「いままで犯人は悪いことをしてきたが、今回は私を救うために法を犯した。ゆるしてくれないか」と嘆願される。しかし裁判官は取り合わない。
裁判官は証拠の偽造1ドル硬貨をもったまま恋人と狩りに行く。そこで冒頭の殺人予告をしたやつが、銃をもって殺しに来た。銃弾が浴びせられる。応戦しようとしても、裁判官がもっているのは狩りのための散弾銃。射程が短くて届かない。圧倒的な不利である。どうするのか。
「少し時間を作ってくれ」。そう恋人に言った裁判官は、狙いをつけると射程外の相手を打ち抜いた。
どうやったのか。
裁判官は1ドル硬貨を加工して、銃弾に仕上げたのだった。
裁判長に言う。「証拠がなくなったので、裁判はできません」
【感想】
冒頭からただようサスペンス感。続きが気になる。ラストは、どうするんだこれ……と思いながら、完璧なオチ。すごい。
「甦った改心」
【あらすじ】
天才的な鍵開け師は銀行強盗を繰り返していた。当然、何度もつかまっていた。警官は我慢がならず、つぎは絶対に減刑させないと言っていた。
鍵開け師は、別の町で恋に落ちる。好きな相手の家は資産家だった。信用を得るため、まっとうな仕事に就いた。健全な人間関係を築く。名前も変える。何年もたって、その恋人と結婚することになる。警官に「改心した。見てくれ」と言って、街に呼ぶ。
警官が来た日、資産家の家に新しい金庫が届く。正規の方法でなければ、作った業者でないと開けられない。間違ってその家の子供が中に入って閉じ込められる。業者が来るには時間がかかる。はやく開けなければ死んでしまう。
鍵開け師は、警官の前で金庫をこじ開ける。子供を救う。「さあ捕まえてくれ」
「人違いのようですな。名前が違います」警官は言った。
「警官と讃美歌」
【あらすじ】
冬を越すため彼は刑務所に入ろうと思った。簡単なことだ。罪を犯せばいい。
しかし、高級な店で無銭飲食をしようとしたら、服がダメで門前払い。
ショーウィンドーを叩き割っても、犯人が現場に居続けるわけがないと言われ放置される。
普通の店で無銭飲食をしたら、ボコボコにされて放り出される。
傘を盗んだら、その傘も盗難物だった。
こぎれいな女性に迷惑をかけようとしたら、その女性は売春婦。
気が狂ったふりをすると、そのまま放っておかれる
法を犯すのは簡単なはずなのに、とても難しい。道を歩いていると、讃美歌が聞こえる。おもわず立ち入る。こころに染み入る。「ああ、これからはまっとうに生きよう」
警官が来た「何をしているんだ。ここで」。不法侵入だった。
「刑期は3か月」
【感想】
完璧なプロット。
「最後の一葉」
【あらすじ】
画家のたまごが集まる貧乏街。彼女が住むアパートは、かつて画家を目指した老人のものだった。
友人が大病をわずらう。「生きたいという気力がなければ、難しいでしょう」
彼女は老人に話す。「友人は、窓から見える葉っぱが散り終えるのを見てから、死にたいと言ってました」。
一枚。また一枚と葉っぱは落ちていく。しかし最後の一葉は、雨が降っても落ちない。
老人は肺炎になって死んでしまう。いっぽう友人は病気の山を越す。
よく見ると、最後の一葉は向かいの壁に描かれたものだった。老人が雨に濡れながら、夜のうちに描いたのだ。傑作の一葉を。
「賢者の贈り物」
【あらすじ】
クリスマス・プレゼントを選ぶ、貧乏な一組の恋人がいた。
女は、男の時計につける鎖を買った。そのために流れるような髪を売った。
男は、女の髪に刺す櫛を買った。そのために自慢の時計を質に入れた。
夜ふたりが会うと、男は固まった。彼女の長い髪がない......櫛を見せると、女は泣きながら「私の髪は、伸びるのが早いのよ」と言った。
女は鎖を見せながら「あなたの時計にぴったりなの。時計を出して」
男は言った。「プレゼントはやめて、ご飯にしよう。プレゼントは、いまのぼくたちには上等すぎたんだ」
【感想】
この作品だけは、神の視点が入ってきて若干戸惑う。しかし完璧なプロットである。