白くま生態観察記

上洛した白いくまもん。観察日記。勝手にコルクラボ

三木清『人生論ノート』

三木清『人生論ノート』(新潮文庫、1954年)。

 

「成功と幸福とを、不成功と不幸とを同一視するようになって以来、人間は真の幸福が何であるかを理解し得なくなった。自分の不幸を不成功として考えている人間こそ、まことに憐れむべきである」(「成功について」)

 

渡部昇一『「人間らしさ」の構造』を読まれた方には、当然の話であろう。成功とは外側の価値観であり、幸福とは自分だけの価値観である。

本書からは、こういった思索の跡がよく見て取れる。滋味深いエッセー集である。

「懐疑」「習慣」「怒」「孤独」「嫉妬」「成功」「瞑想」「噂」「利己主義」「秩序」「感傷」「旅」は、とくにすばらしい。おすすめである。

 

人生に悩んで、自分のなかに沈みこんでいる人は、本書の「感傷について」を読んでほしい。えぐってくる。

 

【適当に抜き出し】

「孤独は内に閉じこもることではない。孤独を感じるとき、試みに、自分の手を伸してじっと見詰めよ。孤独の感じは急に迫ってくるであろう。」

「孤独には美的な誘惑がある」

「感情は主観的で知性は客観的であるという普通の見解には誤謬がある。むしろその逆が一層心理に近い。感情は多くの場合客観的なもの、社会化されたものであり、知性こそ主観的なもの、人格的なものである。真に主観的な感情は知性的である。孤独は感情でなく、知性に属するのでなければならぬ」

「たとえば人と対談している最中に私は突然黙り込むことがある。そんな時、私は瞑想に訪問されたのである。瞑想はつねに不意の客である」

「愛とは創造であり、創造とは対象に於て自己を見出すことである」