三島由紀夫『美徳のよろめき』
渡部昇一『「人間らしさ」の構造』で、「変に重くなくて軽い。筆のノリが違う」と絶賛されていた小説である。
とてもよかった。お薦めだ。
【あらすじ】
穢れをしらない淑女が、その純真さゆえに夫以外の男と関係をもってしまう。
はじめて味わう恋。全身を預けるような快感。淑女は、女となる。
しかし夢の日々は、男に他の女の影がまとわりつくことで終わりはじめる。相手以上に好きになっていたことを認識する。数度目の中絶とともに決心する。
「わかれましょう」。
自分で言っておきながら、忘れられずに手紙を書く。しかしそれを破き捨てる。
淑女は「穢れた」のか。こころを味わう物語。
【感想】
一見、純真な女性が穢れていくのか……と思う。
けれど穢れない。穢れとはこころの問題であり、彼女のこころは穢れない。読んでいて、どこまでも透き通っていて、とてもきれい。
純真なまま恋に堕ちていき、苦悩しながらも引き際を見極めて身を引く。
想いを打ち明けた手紙を破き捨てる。このラストは最高だった。
ぼくもよろめきたい。