高石宏輔『声をかける』
高石宏輔『声をかける』(晶文社、2017年)。
某氏がおすすめしていた。「ナンパは自傷。」との言葉にひかれて購入。
よかった。
【構成】
話すのが苦手、ノリに身を任せるのも苦手。はっきりいって、主人公は女性に声をかける人種ではない。しかし彼は、そんな自傷行為を繰り返しながら、他人や、自他の関係性について言葉にしていく。同時に自分を知ることになる。声をかけて、かかわっていかなければならない。
【感想】
読む人を選ぶと思う。「現実はフィクションだ。フィクションだから意味がないのではなくて、フィクションだからこそ意味がある」。こんなふうに思っている人には、迫ってくるものがある。そうじゃない人・そう思えないときにはおすすめしない。
「みなが同じことをしていると、ふと自分だけ我に返った。周りを見渡すと、周りの人たちは僕がその空間の外側に出て彼らを見ていることに気がつかなかった」(273頁)。周りとはすこし違ってしまう自覚をもつ主人公は、声をかけながら相手を観察する。自分のなかの感情を観察する。
声をかけ続ける。会話を成立させるというフィクションに身を投じる。セックスするというフィクションに身を投じる。しかしどこか冷めた内省から離れられない。
宿命だな、と思った。これが人間だ。
「別れ際にならなければ、人は本心を打ち明けることができないのだろうか。これまでも、僕の胸に突き刺さった他人の言葉は、いつも別れ際に伝えられたものだった。」(277頁)
「なにか、静かな寂しさを感じるの。」
「そういう人間だから。」
「でしょ。新宿で会ったときから感じてた。」
「なんでそのとき言わなかったの?」
「言わない。そんなの。失礼でしょ。」
「街角で声をかけてきた人に『寂しそうね』って言うことが?」
「そうよ。」
「失礼なんかじゃないよ。そんなこと言われたら最高だよ。」(225頁)