白くま生態観察記

上洛した白いくまもん。観察日記。勝手にコルクラボ

マインドフルネス

ストレス対策1

 

マインドフルネスについて。

 

つらかった時期があった。どん底だった。

そのとき生きるために身につけた術のひとつが、マインドフルネスだった。

マインドフルネスがちょうどテレビで話題になりかけた時期だった。わかりやすい書籍も出始めた時期だった。けれど、そういう簡略化されたもので、自分が救われるとは思えなかった。

どうせなら、本物を。

ということで、カバットジン(春木豊訳)『マインドフルネスストレス低減法』(北大路書房、2007年)を読んだ。マインドフルネスはカバットジンが提唱した方法である。本物を読みたかった。いや本物は英語だし、改訂版も出ているから厳密には違うのだけれど、まあ多少はね。

つらいときは本さえも読めない状態だったから、すこし楽になってから読んだ。読めること自体に回復を感じた。マインドフルネスを身につけてからは、最悪の状態には至っていない。

 

細かいことはいい。

マインドフルネスは、自分から離れる技術である。瞑想を科学的に体系化したものだ。

いろいろな種類がある。呼吸法、歩行法、ヨガ法。いちばん最初は、身体を動かさないほうがいい。身体を動かしながら、瞑想をするには習熟が必要だ。

まず横になった呼吸法をおすすめする。

段階がある。

 

1.横になって、目をつぶる。全身の力を抜く。

2.息を限界まで吐き出す。そうしたら呼吸が深くなる。

3.意識的に吐くことを続けながら、自分の身体がどう感じるか、観察してみる。

 

ふつうは、呼吸に意識を向けろ、という指導がされる。本でも最初はそう書かれている。

呼吸のときに、空気が鼻から気管を通って肺に入る。肺が膨らむから胸も広がる。胸がしぼむと空気が押し出され、鼻を通って、外に出ていく。呼吸に意識を向けながら、でも他のことに意識が行ってしまう。たとえば、「あ、今日の夜は好きな映画があるんだった」「なんでこんなことをやってるんだろう」。それは自然な反応だ。そういう思考を観察して、受け入れる。そういう自分に気づくたびに、呼吸に意識を戻す。

しかし呼吸に意識を向けることは、重要だけれど、本質ではない。

本で重視されるのは、「自分と、自分が感じていること」を区別することである。

頭が痛くて日常生活に支障が出る患者がいた。その人がマインドフルネスの講習を受け、自分でできるようになると、頭の痛さが軽減した。不自由なく日常生活が遅れるようになった。なぜか。自分を分割して認識できるようになったからだ。いままでは「頭が痛くてかなわない」と感じていたけれど、「頭の痛さと、それを感じる自分は別物だ」と認識が新たになったのである。自分を観察できるようになったのだ。

つまり、マインドフルネスは自分から離れる技術である。

だから呼吸が重要ではないのだ。いま自分がどう感じているか、意識するのが重要だ。最初は言語化してみるのがいいだろう。

横になっているとき、周囲の温度は快適か。顔をなでる空気は、どのように流れていくか。地面と接する背中に、どのくらい重みが加わっているか。心臓の鼓動は、どのくらい速いか。隣の部屋から、どんな音が聞こえてくるか。鼻で感じる匂いは、どうか。目を閉じてはいるけど、光はどのくらい感じるか。足先がむずむずしないか。ズボンと脚が擦れていないか。

五感を総動員して、自分の感覚を呼び起こしていく。これがマインドフルネスの初歩である。

普段、健常者は視覚を中心に生活する。その状況を、あえて不自由にする。目をつぶって横になる。不自由にすることで、他の五感を使わざるをえなくする。横になるのは、もっとも楽な姿勢だからだ。座っているほうが楽なら、座ってやるのもよい。しかし意識しなくても、姿勢保持のために体幹が使われている。横になるほうがいいと思う。

五感は使えば使うほど、研ぎ澄まされていく。たとえば、ぼくなら、心臓から送られた血液を、即座に指先で感じることができる。心臓の拍動で押し出された血液が、血管を通って、指先に届けられる。皮膚の感覚で、血流を感じられる。条件が良ければ、足先でも感じられる。指先までと足先まででは、心臓からの距離が違うから、血液が届くまでにラグがあることもわかる。もっというと、いまどこに重心が置かれているのか、も意識できる。

 

「自分を観察する=自分から離れる」ことがマインドフルネスなのだから、横になる必要はない。歩いているときでも、運動しているときでも、車を運転していてもできる。マインドフルネスの状態に自在に入れるようになったら、試してほしい。

重要なのは、「いま、自分の身体は、何を感じているのか」を丁寧に確認していくことである。

目の前にとらわれがちな自分から、離れることである。

目の前から離れて、将来や過去にとらわれる自分から離れて、いまここの自分を観察する。これがストレスを低減させるのだ。

とはいっても、現在どん底なときにはできないのが普通だ。すこし楽なときに、将来を見越して身につけるのがよさそう。