青木琴美『虹、甘えてよ。』
少女漫画である。しかし少女漫画ではない。
「その後」を正面から描く物語。
漫画を読む人なら、青木琴美という名前は聞いたことがあるはずだ。たとえなくても、『カノジョは嘘を愛しすぎてる』や『僕の初恋をキミに捧ぐ』という題名には、心当たりがあると思う。その作者である。
こんな講釈はいらない。
とりあえず、読んでほしい。小学館のサイトで第1話を読める
キミは僕の、親友の彼女。[虹、甘えてよ。 1]青木琴美 - チーズ!ネット
ただし、重いものが苦手な人は、以下のブログを先に読んでほしい。なんとなく、何があったのかを察せるように書いたつもりだ。
きわめて漫画的な漫画である。最小限のコマで、テンポよく進んでいく。記号的な表現を効果的に用いて、導入をサクッと進める。ぼくらは、語り手の男子高校生に、いつのまにか感情移入させられている。熟練のうまさを感じる。
簡単に冒頭を追っていく。
※
虹というヒロインを、こころの底では好きだと思っているのに、はっきり好きだと認識できない主人公。
親友と虹が抱き合っている姿を見てしまう。
――あの子は、ぼくの親友のことが好きなんだ。
しかしこれは彼の誤解だった。
親友は、虹のことが好きなのではなく、重要な打ち明け話をしただけだ。ふたりが抱き合っていたのは、その打ち明け話の重大さに、心と心のつながりを感じたからこその行動だった。なんでも恋愛に変換するのは、年頃の悪い癖だ。
誤解なのだが、彼は自意識に阻まれて、虹のまえから逃げてしまう。
※
さて、ここまでは、普通だ。
厳密には普通ではない。斬新な内容がある。
けれど、あえて「普通」といいたい。
この次の場面こそが、「少女漫画ではない」からだ。
ある事件が起こる。無音で写真のようにコマが送られる。ぼくらは何があったのか、容易に理解する。これを読んだときの衝撃は、言いつくせない。キュンキュンを読もうと思ったのに、「裏切られた」気もちが強かった。
この事件と、次の日の彼女の拒絶反応。
そして、事件があっても、
「あんなやつのせいで
わたしを
わたしを
変えられてたまるか」
と叫ぶ彼女。
そんな彼女を目の前にしながら、抱きしめてはいけない、主人公。
連続して、心の奥がえぐられる。
はっきり言って、重い。重すぎる。
受け入れられない人がいるだろう。『聲の形』と一緒だ。
それでも、この漫画が何を描こうとしているかが伝わってくる。
「その後」を正面から描こうとしている。
このテーマを正面から描けば、自然と重くなってしまう。第1巻の最後でも、○○恐怖症が発症する。
けれど、熟練の筆だから、軽い描写を適度に挟んでくれる。
重いだけではないから、読みつづけられる。
そして、最後には救いがあると信じられる。だから読みつづけようと思える。
心に深く傷を負った少女は、どのように救われていくのか。異性としての男に、甘えられるようになるのか。
自分のせいで彼女に傷を負わせたと後悔する主人公は、「甘えてよ=頼ってよ」なんて言う資格がないと思っているはずだ。はたして、言えるようになるのか。