『インベスターZ』
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第8-9巻で堀江貴文さんが出てくる。
堀江さんがベンチャー投資をするときのエピソードを紹介したい。
※
東京で開かれた投資家向けのパーティで、起業家がプレゼンをする。新事業への投資を募るためだ。そのなかで、京都大学の中川くんが「不老不死をビジネスにします」と言った。彼は優秀そうだったけれど、どこか覇気がなかった。
興味を引かれた堀江さんは、出資の代わりに3つ条件を出した。
一つめは、不老不死の可能性を論理的に説明すること。中川くんは難なく説明した。
二つめは、財布と携帯なしに北海道までヒッチハイクすること。期限は2日後の正午まで。三つめの条件は、そのときに発表すると。
中川くんは「無理ですよ」と言ったが、出資を受けないとどうにもならないから、ヒッチハイクを敢行する。さんざん人に断られつづけて、プライドなんかズタズタになる。それでも諦めずに拝み倒して、なんとか北海道までたどり着く。
三つめは、北海道の原っぱを1日で草刈りをしろというものだった。渡されたのは手動の草刈り機のみ。中川くんは「無理ですよ」と言ったが、堀江さんは「ベンチャーとは、無理を実現させてビジネスに変えることだ」と断じる。中川くんは、必死に考えながら原っぱに向かう。けれどいい案は思い浮かばない。仕方がないからと自分ひとりで草を刈っても、広大な原っぱには雀の涙だった。
そばを通りかかったおじさんがいた。その人は草刈りマシンに乗っていたから「手伝ってくれませんか」と頭を下げて手伝ってもらおうとした。しかし、「仕事中だから無理」と断られる。万策つきた中川くんは、それでもひとりで草を刈り続ける。
堀江さんが、すべてわかったようにつぶやく。
「中川君って、優秀だからね……
だけど優秀なエリートって、正しいことしかしない。それも一人で」
「たった一人で正しいことを正しくやろうとする。
論理的に根拠を提示して、効率的に……」
「でもね……たった一人で正しいことをしても、面白いものは作れない
人って論理だけでは動かされないからだ」
「面白いものって 論理じゃなく……
感情でできてるんだよ」
中川くんは、ひとりで草を刈りつづけていた。絶対に間に合わないとわかっていても、熱い陽射しで汗をダラダラ流しながら。
そうすると、さっきの草刈りマシンのおじさんがやってきた。「まだやってるの。日が暮れちゃうよ」と声をかけてくる。中川くんは「今日中って決められてるので、なんとかしないと」と返す。するとおじさんは、仲間にも声をかけて、みんなで草刈りを手伝うと言ってくれた。
そうして見事、1日で北海道の原っぱの草刈りを終えた。
「ホンマに、ありがとうございます」
中川くんは、深々と頭を下げた。晴れやかな顔をしていた。
※
という話である。
めちゃくちゃ感動した。
それはたぶん、昔のぼくが中川くんみたいだったからだ。
どうしようもなく頭でっかちで、何かやると言っても壁に当たったらすぐ無理ですと言い、できない理由を当然のようにでっちあげる。ボロクソ言われても拒絶されつづけてもほとんど無理そうでも、ただひたすら努力する度胸がない。ほんとうにやりたいと思っているはずなのに、そのために何でもする覚悟がない。安全地帯から眺めて、こうなったらいいなぁと願っている。
なにより、心から「ありがとうございます」と言ったことがなかった。
バカか俺は。
ほんとうのアホだ。生きている価値もない。
そうしてぼくはいったん死んで、新たに生まれなおした。中川くんも、同じ。