白くま生態観察記

上洛した白いくまもん。観察日記。勝手にコルクラボ

『孤独のグルメ』

ひとり暮らしを始める後輩の手伝いをした。東京から京都に来て、はじめてのひとり暮らしだ。

ぼくと同じ状況だから、なんだか去年を思いだしてウキウキしてしまう。ふたりで自転車に乗って、「ここのリサイクルショップ安いし、掘り出し物あるよ」とか「ここのドラッグストア、二階に百円ショップが併設されてて便利だよ」とか案内する。

 ついでに後輩の家で家電を設置していると「食事、どうしてます?」と聞かれて、「自炊してるよ」と何の気もなく答える。

「ですよね。ぼくも自炊しようと思うんですけど、お皿とか準備するの面倒じゃないです?」

「お皿やお椀は使わなくなるよ笑。ひとりで食べるだけだから、洗い物とか面倒でしょ。おかずはフライパンからそのままだし、ご飯はお釜から直接食べてる」

後輩はちょっとさみしそうな顔をして、「ですよねー」と話をあわせてくれる。

 

その瞬間、なんだろうか、心にザラリとした感触を感じた。

――ひとりで食べるだけだから、洗い物とか面倒でしょ

――おかずはフライパンからそのままだし

――ご飯はお釜から直接食べてる

見つけてはいけない扉を開けてしまったようだった。言葉にすることで、部屋でひとり食事をとっている姿が目に浮かんでくる。壁の向こうから漏れてくる笑い声を打ち消すようにテレビをつけて、ただ黙々と夕飯を食べている。テーブルの上には、1.5合の白米が入ったお釜と、野菜炒めの入ったフライパンが乗っている。

 

今日の夕飯どきに見ていたテレビは、松岡豊さん主演の『孤独のグルメ』だった。

渋めの俳優が様々な飲食店に出入りして、一口ごとに舌鼓を打つ番組である。たったひとりで食べているものだから、心のなかの思いがモノローグとして流れる。(ああ、この金目の煮つけ……身がホロホロと崩れる。ん、このタレの風味、隠し味として何かが入っている……わからん。しかし、うまいからいいか)みたいな。

おっさんがご飯を食べるだけの番組に、見入っている自分がいる。なんでこんなに、この番組が好きなのだろう。

 

松岡さんが味わって食べる表情がじつによくて、まじまじと眺めてしまうのだ。目の前のひとが、ほんとうにおいしそうな表情をしてご飯を食べる。松岡さんと一緒に夕飯を食べると、なんだかほっとする。自然と顔がほころぶ。

ああ、ぼくは誰かと一緒にご飯を食べたいのだ。目の前のひとが「おいしー」と言ってくれるのをニコニコしながら眺めたいのだ。「そうだねー」とか言いながら、楽しく食事をしたいのだ。

その欲求を『孤独のグルメ』を見ることで、直視しないようにしていた。

 

気づきたくなかったなぁと思いながら、今日もひとりで夕飯を食べた。火加減が絶妙で、うまい野菜炒めだった。