おかざき真里『かしまし飯』
「どんなひとが好きなの」と訊かれると、いつも回答に迷う。
迷って迷って開き直って「好きなひとが好きなんだよ。好きってそういうもんでしょ」と言いたくなるけれど、でも目の前のひとから求められているのは、そういう回答じゃない。
話のタネになる、拡がりのある回答を求められている。
どうしよう、どうしようと考えつづけて、頭をギュルンギュルン働かせる。しかし、どことなく恥ずかしい話題に、脳みそは空回りしていく。
焦る。あまり間が空いてもいけない。空気が滞ってしまう。
必死に考えて「笑顔がかわいいひとかな」と言う。それらしい言葉をひねりだせて、ほっとする。乗りきったぞ、さて、どう返してくるかな。
「それ何にも言ってないじゃん笑。好きになったら、かわいく見えるでしょ。やりなおし」
一瞬でバッサリ切られる。あーあ、失敗だったか。考え直さないと。そうやって話してる笑顔がかわいいんだけどな。こいつは何も、わかってない。
話のうまいひとはいいな。うらやましい、と思う。場を刺激するひと言、想像もしないひと言。なんでもいいけど、場の空気をうまく乱して、新たな話のタネになるひと言。そういう言葉をポンポン放っていくひと、すごいなぁ。
こういうとき、適当に答えられたらな。話がうまくないことはわかってる。内省的なこともわかってる。けれど、せめて、一緒にいてくれるひとを失望させない程度にキャラを演じたい。
たのしい飲み会なんだから、みんなでたのしく過ごしたい。
※
みたいなことを、ここ数年ずっとやってきたのだけれど、おかざき真里『かしまし飯』第1巻(祥伝社、2017年)を読んで、これだっ! と思った。登場人物のあいだにただよう雰囲気が最高なのだ。一緒にあたたかいご飯を食べるということが、どれだけひとを救うだろう。その瞬間と関係性が、どれだけありがたいことか。
「一緒にご飯を食べたとき、おいしいねって笑いあって、ほっとできるひと」
「どんなひとが好きなの」という回答にたいして、ぼくはこれからそう答える。
なんというか、そういう漫画だった。