白くま生態観察記

上洛した白いくまもん。観察日記。勝手にコルクラボ

七夕

笹にくくりつけられた無数の短冊を見ているうち、なんともいえない違和感がわきあがってくるのを彼は感じた。

――なぜ、ほとんどの短冊が「……ますように」で終わっているのだろうか。願うだけでは意味がないじゃないか。願うのではなく、宣言したほうがいいのではないか。

「いつまでも健康でいられますように」と言うくらいなら、毎日30分走りますなどと宣言すればいい。「いい人が現れますように」と言うなら、自分からアプローチするひとになりますなどと言えばいい。神に約束して、実行すればいい。なんでこの人たちは、ただ願っているだけなのだろうか。

願うのは、誰かに人生を左右してもらいたいからだ。自分で人生を切り開くことから逃げて、誰かが自分の人生を良くしてくれることを祈っている。

違和感が怒りに変わっていく。自分の人生なんだから自ら動けよという気もちが抑えきれない。彼は短冊に思いを書き殴って、一緒に来ていた女性の短冊を頭越しに覗いた。「……ますように」ではないことを期待しながら。

「○○くんと一緒にいられますように」と書いてあった。思わず赤面して、暗くなった天を見上げる。悪いひとじゃないんだよな。良いひとなんだ。怒りは一瞬のうちに霧散する。彼は自分が最近思いつめていたことを実感した。願いごとを書くのが七夕なんだから、難しく考えなくていいんだ。もっと楽しんでいい。

なんだか笑えてきた。アハハッと笑う。覗かれてプリプリしていた彼女から「なんて書いたの」と言われて、しかたなく短冊を差し出した。「俺は東京オリンピックで金メダルを取る」と紙いっぱいに書いてある。

「自分のことしか考えてなかったんだ」と釈明した。

彼女は「キミらしいね」と言って、これ、私がつけていい? と仕草で示す。短冊を入れ替えて、彼らは笹にくくりつけた。「そういうところが好きだよ」と彼が言った。彼女はふふっと笑った。