吉本ばなな『キッチン』
大事な誰かをなくしたひとたちの短編集。3篇おさめられており、表題作は連作である。残るひとつは「ムーンライト・シャドウ」である。
初期の作品だということからわかるとおり、文章には拙さが見られる箇所もある。しかしそれ以上に、光るものがある。こころのなかを描くのが、とてもうまい。
【あらすじ】
「キッチン」
唯一の親戚である祖母を亡くした私は、死を受け入れられない。キッチンだけが安息の場所だった。成り行きで田辺雄一の家に居候することになり、その「母親」とも交流していくうち、死を受け入れられるようになる。「自慢の祖母でした。」
「満月――キッチン2」
ひとりで生活するようになった私は、「母親」の死を知らされ、雄一の家に泊まる。家族でも恋人でもない関係は、ここちよい。雄一を好きな女性から「おかしい」と突きつけられる。私は仕事で泊まりの出張に行くことになる。
いっぽうで、悲嘆にくれる雄一は逃げた。遠くに旅行に行った。主人公はここちよい友人(責任を負わなくてよい)の立場ではなく、恋人として関係をもつ決心をしてカツ丼を届ける。
「ムーンライト・シャドウ」
恋人を事故で亡くした私は、恋人の弟と交流しながらふっきれない日々を送っている。ある女性との導きで恋人ともう一度会うことができ、ふっきれた。