文芸
エーリッヒ・フロム(鈴木晶訳)『愛するということ』新訳版(紀伊国屋書店、1991年) 超短文要約愛は世界にたいする能動的な態度・人格である。 ――ざっくり内容紹介 この本は「愛は技術だろうか」という衝撃的なことばで始まる(第1章)。 フロムによると、多…
このブログでは、福永武彦をもとにして愛を考えてきた。 去年、すでに三冊を取り上げた。どれも拙くて福永さんを読んだことある人にしか伝わらないので、リンクは貼らない。 いくら拙いとはいっても、『愛の試み』を取り上げた回は酷すぎた。本を理解する気…
音楽体験には適切な感情の構えが重要であると言ったけれど、感情とは何か、という問題を考えたい。感情を説明しなければ、どう構えたらいいのかを説明しきれないからである。 以下の文章は、三木清『人生論ノート』から取ってきた。これをタネに、感情の全体…
菫(すみれ)の花を見ると、「可憐だ」と私たちは感ずる。それはそういう感じ方の通念があるからである。しかしほんとうは私は、菫の黒ずんだような紫色の葉案を見たとき、何か不吉な不安な気持ちを抱くのである。しかし、その一瞬後には、私は常識に負けて…
イ・ヨンド『ドラゴン・ラージャ』を小学生のときに読んでいた。ファンタジー作品で、民族ごとの世界観・宗教観にしびれていた。 いまでも憶えている話をひとつ。 手のひらいっぱいのおはじきを地面に投げ落としたとする。おはじきはバラバラに散らばって、…
岡田暁生『音楽の聴き方』(中公新書、2009年) ぼくは、ツイッターで「芸術を語る視線を手に入れられる本」と評した。著者の実感とあわせて、思考の軌跡をたどれる本である。素晴らしい。 印象的なエピソードがある。 著者がドイツの友人宅を訪問したときの…
塾講師をしていたころ 「悲しいのに泣けない人っているけど、感覚がわかんない。わたし卒業式とか号泣しちゃう」 と言っている人がいた。同じ教室に「悲しくても泣かない」という人もいれば、「そもそも泣かなくね。なんで泣いてんの。みっともない。」と言…
谷川俊太郎さんの大人の話を読んで、鴻上さんの「大人」の話を思いだした。おすすめです。 鴻上尚史『鴻上尚史のごあいさつ1981-2004』(角川書店、2004年) 高校時代の彼女は、何ものかにすがることを、はっきりと拒否しているように当時の僕には思えました…
谷川俊太郎『谷川俊太郎 質問箱』(ほぼ日刊イトイ新聞、2007年) 質問 どうして、にんげんは死ぬの? さえちゃんは、死ぬのはいやだよ。 (こやまさえ 六歳) (追伸:これは、娘が実際に母親である私に向かってした質問です。 目をうるませながらの質問で…
三田誠広『いちご同盟』(集英社文庫、1991年) 『君嘘』は、『いちご同盟』へのオマージュだった。 高校生のとき、20歳には死んでそうだなと思った。 大学に入って、30歳くらいで死ぬなと思った。 体調を崩した時期には、残りの人生は消化試合だなと思った…
漢詩を語ることで、『君嘘』に迫る。 李白の「黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る」。漢文の教科書で読んだ。 七言絶句である。縦書きのものを、横書きにした。 故人西辞黄鶴楼 煙花三月下揚州 孤帆遠影碧空尽 惟見長江天際流 高校生のとき、この詩を読んで…
齊藤亜矢『ヒトはなぜ絵を描くのか』(岩波書店、2014年) 岩波書店『図書』2017年12月号で、齊藤さんの文章を読んだ。 「サルを追いかけていたら、崖から落ちて背骨を骨折した。サルを追いかけて? と笑われることも多いが、まったく笑いごとではなかった」…
ハリーポッター・シリーズで、大きな謎があった。 なぜ「エクスペリアームス(武装解除)」の呪文は、さまざまな効果をもつのか。 あるときは相手の杖だけを吹き飛ばしたり、あるときは相手の杖を術者のほうに飛んでこさせたり、またあるときは相手ごと吹き…
今年読んだ物語とか。ベスト3と言いつつも、ひとつしかなかったりするのはご愛敬です。 全部門トップ おかざき真里『阿・吽』(小学館) 絵に吸い込まれて、呼吸がとまるという稀有な体験ができます。はーと息を吐ききったとき、口から出るのは「すんげぇ」…
深町秋生『果てしなき渇き』(宝島社、2005年) おすすめされた。 読みながら、こういう本をおすすめするひとは、どういう人間なのかを考えていた。 暴力につぐ暴力が延々とつづられる。具体的で肉感のある描写だから、読者は暴力をする側になったり、される…
「大切な情報をたくさん得ているかわりに、どうでもいい情報の洪水が、私の脳にはがんがん入ってきているのだ。 それを偶然にも一時的に中断してみたら、頭の中がすっきりした。どうでもいい情報はやっぱり害なのだ、とあらためて思った瞬間だった。どうでも…
人は見たいものしか見ない。目の前にあっても、ちゃんと見ることができない。 と、よく言われる。正しい。 しかし、ぼくはこうも思う。 目の前のものをそのまま見るには、どうしたらいいのか。 見ることができないのだから仕方ないと諦めるのではなく、でき…
毎週、NHK『ドキュメント72時間』を見ている。 どうしても頭から離れない女性がいる。 禅寺体験の回。参加していた女子大生だ。 警察官になることが彼女の夢だった。そのために大学に行って、自動車免許もとって、たぶん身体も鍛えていた。 しかし、車を運転…
伊坂幸太郎『砂漠』(新潮文庫、2010年) 「大学生活を変えた本。おすすめ」とのことだった。「伊坂さんのなかでは異色なんだけど」 本の感想を書くとき、巻末の解説を先に見る。誰かが書いているのと同じことを書いてもしょうがないからだ。ネットは見ない…
鴻上さんの『表現力のレッスン』を読んでいる。 この本は「信頼のエチュード」という演劇のレッスンで始まる。 ふたりで行う。前後に立って、前のひとは目をつぶって後ろに倒れる。後ろのひとは、倒れてくる前のひとを支える。 前のひとの信頼が試されるレッ…
三浦しをん『風が強く吹いている』(新潮文庫、2006年)。 夜中の11時に読みだした。そのまま、深夜3時半まで読んでいた。 普段なら「明日もあるし、ここでやめて寝よう」と手をとめる。しかし本書には、先を読みたいと思わされた。心のままにページをめくっ…
芥川龍之介の恋文、やばい。 なんだこれは。 http://weemo.jp/v/f67f657a こんな恋文をもらったら、好きになってしまう。 たとえ嫌いな相手からもらったとしても、この恋文にはグラッときてしまう。 こころがうつくしい。 罪だよ、芥川さん。 もうひとつ見つ…
フランク・ウイン(小林頼子・池田みゆき訳)『フェルメールになれなかった男――20世紀最大の贋作事件』(ちくま文庫、2014年) 友人からのおすすめ。「芸術家に対して我々が抱く諸々のイメージそのままの繊細かつ傲慢な画家が、自分を置き去りに先に先にと進…
岡本太郎『自分の中に毒を持て』(青春文庫、1993年) 岡本さんがお坊さんの前で講演を頼まれた。 前にしゃべった講師が「道で仏に逢えば、仏を殺せ」という言葉を使った。有名な言葉だ。一種真理をついている。しかし岡本さんは、ウソだと思った。最初に言…
吉田修一『パレード』(幻冬舎文庫、2004年) 昼すぎに鴨川に行く。デルタでは、ちっちゃい子が遊んでいる。 「ママー、えびいてはるー!」 「えーどこどこ?……うわっ、つめたっ」 スボンをめくりあげて、母親が川のなかに入っていく。この時期の水は、だん…
鴻上さんの著書に、こんなエピソードがある。 名越という、リズム感のない俳優がいた。踊りは下手だけれど、だれよりも楽しそうに踊る。演出家の鴻上は、うまくないけど幸せに踊る姿をみて、いつも幸福になる。それでいいと感じていた。 あるとき名越は、う…
高石宏輔『声をかける』(晶文社、2017年)。 某氏がおすすめしていた。「ナンパは自傷。」との言葉にひかれて購入。 よかった。 【構成】 話すのが苦手、ノリに身を任せるのも苦手。はっきりいって、主人公は女性に声をかける人種ではない。しかし彼は、そ…
小学生のころ、大人になったらこうなりたいという理想像があった。 夢水清志郎だ。 はやみねかおる「名探偵夢水清志郎事件ノート」のシリーズに出てくる探偵だ。黒いスーツを年中着続けて、やせ形で身長は高い。針金細工みたいな。部屋にはうずたかく積まれ…
道尾秀介『光媒の花』(集英社、2012年)。 短編連作集。そうくるか! という驚きの連続で、心が揺さぶられる。緩急がしっかりしている印象。すごい。 友人が紹介していて、たまに読むサイトがある。「作家の読書道」だ。道尾さんは、「相手の頭の中に感情を…
さいきん読んだ本とか。 村山由佳『星々の舟』(文春文庫、2006年) 短編連作集。すんごい。 直線的な幸福ではなく、ねじれきったすえの、一抹の幸せを描く 「自分だけの足で独りで立つことができてこそ、人は本当の意味で他の誰かと関わることができる…