こうの史代『夕凪の街 桜の国』
ふと、この漫画を思いだした。昨年のアニメ映画『この世界の片隅に』の原作者が、昔に描いた漫画だ。
ほんわかしたタッチから生まれる、原爆後の人々の日常。
原爆後を生きるひとは、どう生きていたのか。臨場感がある描写である。
残念ながら、「桜の国」の中身は思いだせない。漫画は実家に置いてきてしまった。
「夕凪の街」のクライマックスは、引き裂かれるような思いが描かれる。
主人公の女性は、こころ惹かれる男性から想いを告げられる。嬉しく思う。しかしキスをされる直前、原爆のときを思いだしてしまう。
――あのとき、わたしは自分のことに必死で、助けを求めるひとを見て見ぬふりをした。他人を見捨てて、自分勝手に生き延びた。こんなわたしが、しあわせになっていいんじゃろか。しあわせにのうのうと生きる権利があるんじゃろか。
こう思った主人公は、キスを拒む。ふたりは愛し合っているが、愛し合えない。
なんということだろうか。
目の前で死んでいくひとを見捨てた自分。しかもそれを忘れていて、こういうときだけ思いだす自分。しあわせになる権利など、ない。自分を責める。
いま、自分を責めても何の意味もないのに。それがわかっていても、自分を責めるのだ。
こころに愛を秘めながら、目の前にしあわせがありながら、孤独を選ばざるをえない。
主人公は、原爆の後遺症が出て、死ぬ。