江國香織『泳ぐのに、安全でも、適切でもありません』
江國香織『泳ぐのに、安全でも、適切でもありません』(集英社、2005年)。
山本周五郎賞受賞作。
さらさらと、こころにしみこんでくる短編集である。私の一人称で、切り取られた世界の断片。
「うんとお腹をすかせてきてね」「ジェーン」「犬小屋」が好みだ。
男と私だけのくすりとしてしまうような決まりごと。なるようになっているのだか、なっていないのだか、よくわからない女友達との日々。さようならのいえないさようなら。
こころの内側に、するりと入りこんでくる。
現実に息づいていて、それでいてふわっとした手触りの作品である。
「短編は完璧な構成を楽しむもの」と思っている私にも、肩ひじ張らない語り口は、するすると読ませてしまう。
夏の夕暮れ、縁側で息をついていると、隣に座った「私」がゆったりと語りかけてくる感じだった。