白くま生態観察記

上洛した白いくまもん。観察日記。勝手にコルクラボ

文芸

三木清『人生論ノート』と井上雄彦『リアル』

おもしろい問いを投げかけられた。問うてくれた人に感謝したい。 「愛とは創造であり、創造とは対象に於て自己を見出すことである」(三木清『人生論ノート』)とは、どういうことか。 まず私がこの本を理解できていなかったことを告白しなければいけない。2…

孤独について。『化物語』と『エヴァ』

孤独と愛についてある人と少し話した。そのなかで、明示的ではなかったけれど、重大な論点が隠されていたように思った。 瞬発力とコミュニケーション力が皆無なので、ぼくは話している最中に違和感に形を与えることができない。残った違和感は解消されずに、…

稲垣栄洋『弱者の戦略』

稲垣栄洋『弱者の戦略』(新潮選書、2014年)。 一時期、民間の就活をしていた時期があった。某出版社の説明会ESに「最近読んだおもしろい本を推薦してください」という問いがあった。フォルダを探していたら、出てきたので挙げておく。 体の大きなウシガ…

『ハリー・ポッターと死の秘宝』

ぼくは軽めのポッタリアンである。 本は10周以上しているし、映画も3回は通しで見ている。映画で省略された箇所も、頭のなかで映像化されているから、地上波放送ではしょられた箇所がわからない。 そのくらいのポッタリアンだ。ただ、何回読んでも、原作第7…

セネカ『人生の短さについて』

セネカ(中澤務訳)『人生の短さについて他2篇』(光文社古典新訳文庫、2017年)。 とりあえず表題作だけ読んだ。 多くの人の人生は、他人のために浪費されるのみである。そうした人生は他人を中心に回るから、多忙を極め、人生は短い。 いっぽうで自分の人…

三島由紀夫『美徳のよろめき』

三島由紀夫『美徳のよろめき』(新潮文庫、1960年)。 渡部昇一『「人間らしさ」の構造』で、「変に重くなくて軽い。筆のノリが違う」と絶賛されていた小説である。 とてもよかった。お薦めだ。 【あらすじ】 穢れをしらない淑女が、その純真さゆえに夫以外…

三木清『人生論ノート』

三木清『人生論ノート』(新潮文庫、1954年)。 「成功と幸福とを、不成功と不幸とを同一視するようになって以来、人間は真の幸福が何であるかを理解し得なくなった。自分の不幸を不成功として考えている人間こそ、まことに憐れむべきである」(「成功につい…

河合栄二郎「学生に与う」

河合栄二郎「学生に与う」『河合栄二郎全集』第十四巻、(社会思想社、1967年)。 某大学院に通う友人のおすすめ本である。古き良き学生を地で行く彼は、人生に悩みながら、そのもがきをブログにしている。たまに読むのだけれど、とてもいい。自分と対面して…

福永武彦『忘却の河』

福永武彦『忘却の河』(新潮文庫、1969年)。 福永作品は、『愛の試み』『草の花』につづいて3作めである。 『愛の試み』では、「孤独と愛」について福永さんの認識を理解した。「充足した孤独は愛を試みる」という言葉に、胸を打たれた。 『草の花』では、…

福永武彦『草の花』

福永武彦「草の花」『福永武彦全集 第二巻』(新潮社、1987年)。 とりとめもない思考の渦を書き連ねているだけのブログに、コメントが付いた。「福永さんの『草の花』は京大生みんな読むべし」とのことだった。こういうお薦めは、ありがたい。 お薦めされた…

坂口安吾『堕落論』と、なにか。

無意味なことをして生きたい、という気もちが抑えきれなくなってきた。 講義に出るよりも、図書館に閉じこもって本を読んでいたい。就職のため勉強するよりも、京都の街中で思索にふけっていたい。誰かと会うよりも、下宿に閉じこもって自分と対話し続けたい…

福永武彦『愛の試み』

福永武彦『愛の試み』(新潮文庫、1975年)。 池袋西口から立教大学にいたる道には、文庫本専門の書店がある。大地屋書店と言う。 個人でやっているから、「こういう本はありますか」と訊くと、すぐ答えが返ってくる。何回か通えば、馴染みとして顔を覚えて…

O・ヘンリー『1ドルの価値/賢者の贈り物 他21篇』

O・ヘンリー(芹澤恵訳)『1ドルの価値/賢者の贈り物 他21篇』(光文社[古典新訳文庫]、2007年)。 O・ヘンリーの短編集は、いろいろな版元から翻訳されている。また、青空文庫でも「最後の一葉」「賢者の贈り物」などを読むことができる(http://www.aozo…

ウィリアム・L・デアンドリア『ホッグ連続殺人事件』

ウィリアム・L・デアンドリア(真崎義博訳)『ホッグ連続殺人事件』(2005年、早川書房)。 【あらすじ・流れ】 ある町で、連続殺人事件が発生した。不可能としか思えない状況で、だれにも姿を見られずに完全犯罪を遂行していく。被害者はバラバラ。殺人を行…

吉本ばなな『キッチン』

吉本ばなな『キッチン』(角川書店、1998年) 大事な誰かをなくしたひとたちの短編集。3篇おさめられており、表題作は連作である。残るひとつは「ムーンライト・シャドウ」である。 初期の作品だということからわかるとおり、文章には拙さが見られる箇所もあ…

ロバート・シルヴァーバーグ『夜の翼』

ロバート・シルヴァーバーグ(佐藤高子訳)『夜の翼』(早川書房、1977年)。 ヒューゴー賞、アポロ賞受賞。 作りこまれた世界観。始まりと終わりが、とてもうつくしい物語だった。 【あらすじ・流れ】 この作品は、第1部、第2部、第3部に分かれる。 第1部:…

江國香織『泳ぐのに、安全でも、適切でもありません』

江國香織『泳ぐのに、安全でも、適切でもありません』(集英社、2005年)。 山本周五郎賞受賞作。 さらさらと、こころにしみこんでくる短編集である。私の一人称で、切り取られた世界の断片。 「うんとお腹をすかせてきてね」「ジェーン」「犬小屋」が好みだ…

宮下奈都『羊と鋼の森』

宮下奈都『羊と鋼の森』(文芸春秋、2015年)。 2016年本屋大賞受賞。 大学4年、オーケストラをやっている友人に誘われて、はじめて生のクラシックに触れた。 プログラムが本棚にある。合計三冊。 あと1週間と少しで、もう一冊加わる。大学生最後は、クラ…

三秋縋「明日世界が終わるなら」

三秋縋さんのツイッターをたまに見る。 そのなかで記憶にあるのが、 「明日世界が終わるなら何をする?」と聞かれたときに、 「会いたい人に会いに行く」と答えるのではなくて、 「会いたい人の会いたい人は私じゃないかもしれないから、結局何もせずに過ご…

三浦しをんさんの短編プチ指南

三浦しをんという名前を聞いたことのあるひとは、多いと思う。小説家である。 名前に聞き覚えがなくても、『舟を編む』という本の題名は聞いたことがあるだろう。この小説は、本屋大賞を受賞しており、映画化もされた。さいきんノイタミナでアニメ版も放送さ…

北方謙三『水滸伝』

先輩からのおすすめ本。 北方さんの『試みの地平線』を読んでから、「北方兄さん」と呼ぶことにしている。『試みの地平線』は、人生相談を集めたものである。悩める男どもの横っ面を、北方兄さんが本音で張っていくさまには、はっとさせられる。 10代~20代…