宮下奈都『羊と鋼の森』
2016年本屋大賞受賞。
大学4年、オーケストラをやっている友人に誘われて、はじめて生のクラシックに触れた。
プログラムが本棚にある。合計三冊。
あと1週間と少しで、もう一冊加わる。大学生最後は、クラシックの年だった。
そういえばと思って、『羊と鋼の森』を読むことにした。
新米の調律師の物語。美しい物語だった。
【あらすじ・流れ】
調律の世界に入るのは、ふとしたきっかけだった。たまたま学校のピアノを調律する様子を見ていた。その調律師の作る音に、「僕」のすべての感覚が揺さぶられる。居場所を見つけた気がした。
調律師になって、先輩について家を回っているとき、仲良くなった高校生のふたごの家で、はじめて調律をする。否、してしまう。
「ほんの少しだし、見習いといっても1年たっている。できるだろう」
できなかった。
できるわけがなかった。僕は打ちのめされる。自分ひとりでは、なにもできない。
数年たって、調律を任されるようになる。しかしどこか先輩たちの域には達しない。どこがどう悪いのか、どうすればうまくなるのか。模索が続く。
そんなとき、ふたごの片方がピアノを弾けなくなってしまう。精神的なものだろう。「僕」にはどうすることもできない。片方が弾けないから、もう片方も弾かない。だれも弾かないから、調律もキャンセルされる。
弾けなくなったほうは妹。弾かなくなった方は姉。
やがて姉が弾くようになった。
先輩とふたごの家の調律に向かう。僕は、最初のころとは違うところに目が行くようになっている。部屋のなかでの、音の響き具合だ。調律は、ピアノだけに向かうものではない。ピアノがだす音の響き具合は、それぞれの環境でまったく変わってくる。しかし、僕は調律しない。
先輩が調律したピアノを、姉が弾く。
湧き出す音。ピアノが息を吹き返す。
姉「ピアノを食べて生きていくんだよ」。
ふっきれた姉の演奏を聴いて、店のみんなは、こころが揺さぶられる。
妹は「ピアノをあきらめたくないんです。調律師になります」。
生きる場所を見つけて、それぞれが頑張る。
憧れの先輩に「なにがあったんですか」「急によくなりましたね」「音が澄んでいます」と言われる。自覚はないが、よくなったのだろうと、僕ははっとする。
先輩の結婚式で、ふたごの姉が演奏することになる。先輩ではなくて、僕がやります、やりたいです。
式場のピアノを調律する。最高の出来に仕上げた。
しかし考慮が足りない。たくさんのテーブルクロスが入っただけで、音の響きが変わることを考えなかった。
ただ、僕は成長している。ピアノを最高の状態にするのではなくて、お客さんが聴いたときに最高の音になるように調律しなおす。たくさんの人が入っても大丈夫なように。
ピアノの演奏はうまくいく。
憧れの先輩から改善点を指摘される。はじめて、技術的なことをいわれる。
ぼくは成長している。しかし道のりは長い。