野望を話せ
忘年会に出た。
先生と一緒に院棟で飲む。
知らない人も、知っている人もいる。
「野望を話せ」と言われ、自己紹介が始まった。
ぼくは、前の人にならって志望先を述べた。
二重のウソである。
その志望先に行く気はない。
たとえ志望先に行く気があっても、志望先を言うことは、野望を言うことではない。
でも、気恥ずかしいから、適当に仮面をかぶった。まあ、こんなもんでいいだろ。
最後のほうで、ある先輩が話しだした。
「仕事で名をあげて、本をいっぱい書いて、テレビにも出て有名になって、有名になって……」
どんどん盛り上がっていく人生に引きこまれる。
そのひとは一拍おく。
つぎにどんな言葉が紡がれるのか、気になる。
そして言い放った。
「死にます」
全員が息を飲んだ。
本人は、何でもないことを言ったかのように座った。
くそかっこいいなと思った。
この一瞬のためだけに、忘年会に出たようなものである。
周りは逃げに走って志望先しか言わないのに、この人だけは、どんなふうに死にたいかまで射程を広げて答えた。
野望というのは、その人間がどのような人生を送りたいかということである。
それはつまり、どのように死にたいか、ということでもある。
この死にかたはかっこいい。
ぼくなら、どう答えるか。
※※※※※を生み出して、死にたい。
今年が終わろうとしているのに、まだ守りに入っている自分がいた。